症例8 審美歯科において印象採得(いんしょうさいとく)の意味するところ

症例7までは歯科の総論的なお話をしてきましたが、今回からは、歯科の各論的なお話も含めて、呈示させていただきます。

私が2002年に雑誌社から依頼を受け、ブリッジの印象採得(型を採ること)を執筆した本です。支台歯(しだいし)とは、歯のない部分にブリッジや入れ歯を入れる際、支えとなる歯のことをいい、支台歯形成とは、クラウンを入れるために歯を削ることをいいます。海外ではpreparation(準備)といわれ、クラウンを入れる準備をすることとされています。

印象採得は歯科医師であれば誰でも、毎日頻繁におこなっている治療です。患者様にとりましては、歯周外科やインプラントは特殊な治療で難しい治療であるという認識されているかもしれません。もちろん、それらを正確におこなうことは難しい治療です。印象採得も同じで、適当におこなうのであれば、だれでも簡単におこなうことができます。しかしながら、特に歯肉縁下(歯肉の縁よりも下の部分)に支台歯形成のフィニッシュライン(歯科医師が支台歯を削った部分と削っていない部分の境界線、ここがクラウンと歯の境目・・・マージンとなる)を設定した場合には、模型上にそれを精密に再現することはとても難しくなります。

なぜなら、支台歯形成と印象採得の際に、歯についている歯肉を一時的に除け、歯と歯肉を明確に区別しなければならないからです。そのためには、歯肉圧排(歯肉と歯の境目をだすために、その隙間に糸を入れて一時的に歯肉を広げること)がおこなわれます。これをきちんと行うこと自体が難しいのです。歯肉が少しでも炎症を起こしていたら、出血して歯と歯肉の間に糸が入らず、歯肉圧排の効果が十分に得られません。もしも、出血したまま印象採得をおこなうと、印象材(型を採るための材料)が、支台歯に流れませんので、精密な型を採ることはできません。現在最も高精度といわれている、シリコン系の印象材を使用する場合には特に注意が必要です。出血や何らかの水分があると、印象材がなじまず却って精度が落ちる結果となります。血液とシリコン印象材は、まさに水と油の関係です。出血するような状況で印象採得しなければならないのであれば、精度を落としてでも親水性のある印象材を使用する方がまだましです。(もしも、ご興味があれば、私の論文の「はじめに」を読まれてください)また、歯と歯肉の境目をだすために、無理やり歯肉圧排をおこなうと、治療後に歯肉が下がり、ブラックマージン(クラウンと歯肉の間に黒い線が出てしまったり、歯肉が 黒っぽく変色すること)の原因となることもあるので、注意が必要です。

未だに歯科材料メーカーが新たなシリコン印象材を開発したり、歯科雑誌社から「印象採得」が特集された別冊が発刊されるということからも、歯科医師にとって支台歯の型を精密に採ることが、非常に難しい治療であるということがご理解いただけるものと思います。

 

術前 2001年5月1日

術後  2002年2月5日

術後 15年10ヶ月 2017年12月19日

私が2001年5月1日から治療させていただいた患者様の症例です。右上1は残念ながら保存(歯を治療して残すこと)できずに抜歯して、2002年2月5日に②1①②セラミックのブリッジを装着しました。一番下の写真は、2017年12月19日、術後15年10ヶ月、の写真です。術直後とほとんど何も変わらず、現在の方が歯肉がクリーピング(歯肉がクラウンに寄り添って這い上がるように移動する現象)していることを確認していただけると思います。このように歯肉に炎症やブラックマージンがなく、良好な状態を長期的に維持するためには、いかに補綴治療(ほてつちりょう・・・歯にクラウンやブリッジや義歯を入れる治療)を精密におこなうかが重要となります。歯科医師が補綴治療をおこなう際に、歯を削って型を採ります。この型取りのことを印象採得といいます。これは歯科医師であればほとんど誰でも、日常的にかなりの頻度でおこなう治療ですが、これらを厳密におこなうことが、このような結果を生む鍵となります。審美歯科とは、基本的治療を積み重ねた結果なのです。

 

この症例で私が採った左上2の型です。型の写真だけだと、専門家が見ても、どのように歯が削られていて、どれくらい歯と歯肉の境目が精密に採られているのかが分かりません。そのような理由から、説得力のあるプレゼンテーションをするのであれば、模型の写真がぜひとも必要になるわけです。

 

これらが型に石膏を流してできた模型です。模型の写真であれば、どのように削って、どのような型を採ったかが、一目瞭然です。これこそが、「下関 おおむら歯科医院」のブログのテーマである「百聞は一見に如かず」であると考えています。なお、「おおむら歯科医院」では、ご要望があれば、患者様に模型を確認していただくことが可能です。また、型を採るトレーもディスポーサブル(使い捨て)を使用していますので、型を差し上げることもできます。

上から、左上2、左上1、右上1の模型となります。歯と歯肉の境目を精密に模型に再現する理由は、マージン(クラウンと歯の境目)のフィットに大きく影響する部分であるからです。もしマージンのフィットが十分でない場合、あるいは、歯肉縁下(歯肉の縁よりも下の部分)の支台歯形成の位置が浅すぎたり、無理な歯肉圧排が原因で歯肉が退縮した場合には、ブラックマージン(クラウンと歯肉の間に黒い線が出てしまったり、歯肉が 黒っぽく変色すること)を生じ審美性に悪影響がでるばかりではなく、2次カリエス(一度治療した歯が再び虫歯になること)の原因となります。その結果、クラウンが口腔内で長期的に安定する可能性が低くなります。

 

おおむら歯科医院で使用しているマイクロスコープ(顕微鏡)です。当医院では主に、根管治療(歯の神経の治療、過去に神経を取った歯の根の再治療)に使用しています。これは肉眼では確認できないからです。

昨今、支台歯形成にマイクロスコープを使うことがトレンドになっているようですが、デメリットの方が多いように感じているので、おおむら歯科では支台歯形成には使いません。細部は見えますが、全体像が見渡せないので、支台歯を曲がったまま削ったり、削りすぎたりします。もともと支台歯はマイクロスコープで見なければ見えないくらい小さなものではないので、細部(マージン)を見るときも高性能ルーペで十分です。それよりも患者様にとりましては、支台歯形成がきちんとできているかどうかを確認していただくためには、模型を見ていただくことが一番確実な方法です。これは当然肉眼で確認できます。

 

この症例は自由診療によるものですが、当医院では保険診療もおこなっております、どうぞお気軽にお声掛けください。尚、全ての症例が同じような結果になるとは限りません。治療前の病状によって術後結果も変わりますので、何か気になる点がありましたらご相談ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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