症例9 審美歯科において歯肉圧排(しにくあっぱい)の意味するところ

歯肉縁下(歯肉の縁よりも下の部分)にフィニッシュライン(支台歯の歯科医師が削った部分と削っていない部分の境界線、ここがクラウンと歯の境目・・・マージンとなる)が設定されている場合、精密な模型を再現するために、印象採得(型を採ること)の前に、歯肉圧排(歯肉と歯の境目をだすために、その隙間に糸を入れて一時的に歯肉を広げること)がおこなわれます。

1の写真は左下5の支台歯形成が終わり、歯肉圧排をおこなう前です。フィニッシュラインが、歯肉縁下(歯肉の縁よりも下の部分)に設定されていることがお分かりいただけるでしょう。また、歯と歯肉の境目が明確に区別できません。これは体が中に異物が入らないように、歯と歯肉が寄り添って密着しているためです。もしも、このまま印象採得をおこなえば、模型上で歯と歯肉の境目を区別することは困難です。クラウンを作製する際に、歯科技工士はフィニッシュラインが明確に分からず、マージン(クラウンと歯の境目)を「だいたいこれくらいだろう」と適当に決めざるをえません。そうなれば、マージンのフィットは望むべくもありません。マージンのフィットは理想的には30ミクロン以内で、60ミクロンを越えると何かしらの影響がでるといわれています。支台歯と歯肉がはっきり区別できないような模型でクラウンを作製したら、60ミクロンはおろか、500ミクロンの誤差が生じてもなんら不思議ではありません。こうなると、一番迷惑を被るのは患者様です。

2の写真が歯肉圧排をおこなっている写真です。支台歯と歯肉の間に入っている青い糸が圧排糸と呼ばれるものです。この糸が支台歯と歯肉の境目を広げます。圧排して5分くらいそのままにして、その後、圧排糸を取り外してから、印象材を流し込むことになります。1と2の写真2枚をよく見てください。歯も歯肉も濡れているのが分かると思います。これは唾液や組織液によるものです。バイキンの繁殖を抑えるために、口の中は常に湿った状態を保っています。

3の写真は圧排糸を外した直後の写真です。1の写真と比較してください。支台歯と歯肉の境目が明瞭です。これは糸により一時的に歯肉がおし広げられているためです。歯肉に出血や水分もありません。こうなると印象採得は容易となりますが、これは体にとっては、本来ありえない異常事態です。無理やりおこなったり、あまりに長時間になると元に戻らず、歯肉の炎症や歯肉の退縮を起こし、クラウンを装着後に、歯肉が赤く腫れたり、ブラックマージン(クラウンと歯肉の間に黒い線が出てしまったり、歯肉が 黒っぽく変色すること)の原因となります。ただ、シリコン印象材を用いた精密印象法は、歯肉からの血液や組織液などを一切受け付けませんので、一時的にこのような環境を作らなければなりません。精密印象のためには、この環境を確実につくることのできる歯科医院のシステムが重要です。歯科医学は科学ですので、もちろん理論が重要です。しかし、技術的な側面もあるので、勘所やコツがあるのもまた事実なのです。

4の写真がその模型となります。支台歯と歯肉の状態が上から3の写真と全く同じであることが確認できます。こうなるとフィニッシュラインは明瞭となり、歯科技工士も自信を持ってクラウンを作製できます。。

前回と今回で、精密な模型を再現することの意味とその困難性をご理解いただけたものと思います。精密な模型がなければ「審美歯科」を達成し、長期的に維持することはできません。歯科医師はこのような仕事をするために、日々努力をしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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