術前
術後
2016年3月2日初診、60代女性。主訴は左下6歯肉の腫れでした。
この歯については歯根破折(歯の根が割れること)のために保存することはできませんでした。2016年8月2日、左上56、左下6のインプラント治療中に、右上①2③ブリッジが自然脱離しました。
下は術後、2017年12月12日の写真です。右上①2③④セラミックブリッジ、左上3、4セラミッククラウン、左上56インプラント、左下6インプラントの治療後です。
全顎的にホワイトニングも行いました。左下2の前歯部交叉咬合(上の歯が下の歯の内側で咬み合わされていて、上下が逆の咬合のことをいう)については、訴えがありませんでしたので矯正治療はおこなっておりません。透明感のある審美的な口元になりました。次は来年、左下5の虫歯をセラミックで治療する予定です。
特に右上3は歯肉から歯が見えないくらい虫歯が深い状態でした。このままではこの歯は抜歯以外に方法がありません。しかしながら、挺出(歯を引っ張り出す)して歯周外科を行えば残せる可能性があります。
以下にオペ中の写真があります。閲覧される場合にはポップアップ表示をされてください。
このように治療していきました。歯周外科の写真で根にヒビが入っていることが確認できます。この歯を十分残すことができるように、歯周組織を外科的治療で整備していく必要があります。
以下にオペ中の写真があります。閲覧される場合にはポップアップ表示をされてください。
右上3はヒビが深かったので、その周りは歯周組織(歯を支える周囲組織の総称)が壊死して付着歯肉(歯と骨にくっついている歯肉)が喪失している状態です。このままでは歯肉の機能を果たしませんので、付着歯肉を作りました。遊離歯肉移植術(上顎から固い粘膜を採取して移植する手術)を用いれば比較的簡単に固い粘膜を作れますが、色や性状が変わることも多く、審美性に劣ります。そのような理由で多少難易度は高くなりますが、有茎弁側方移動術(粘膜弁を切り離さずに隣の歯の歯肉を移植する手術)をおこないました。同時に右上2の歯槽堤には歯槽堤増大術(歯が無くなりへこんだ歯槽堤を回復する手術)をおこないました。
右上3の十分な付着歯肉と右上2のボリュームのある歯槽堤が獲得され、機能的で審美的な補綴治療(ほてつちりょう・・・歯にクラウンやブリッジや義歯を入れる治療)がなされました。
右上134の模型です。歯科補綴学の原則に則って歯を削ることと、削った状態を正確に模型に再現することが必要不可欠となります。これらができなければ、この症例ような自然観のある審美歯科治療は不可能です。おおむら歯科医院では、ご要望があれば、患者様に模型を確認していただくことが可能です。また、型を採るトレーもディスポーサブル(使い捨て)を使用していますので、型を差し上げることもできます。
右上23間のエンブレージャー(歯間鼓形空隙・・・歯肉付近の歯と歯の間にある空隙。正常な歯肉にはわずかに存在する空隙であるが、あまり大きいと食べかすがつまったり、審美的にも問題となる)が2週間ほどで縮小しているのが確認できます。術後にこのような状態を作るためには、歯周外科の際に、生物学的幅径(歯肉が歯周組織のひとつのパーツとして有する歯と付着する機能)を十分理解しておくことが重要です。同時に、補綴治療の際に、エマージェンスプロファイル(歯肉を貫通するところの歯あるいはクラウンの形態)を調整することにより、意図的に歯肉のクリーピング(歯肉がクラウンに寄り添って這い上がるように移動する現象)を誘導することを考えておかなければなりません。もう少し時間が経てば、さらにクリーピングをおこしてきて、自然観を増します。それが達成されてこそ、クラウンと歯肉が調和した審美歯科治療といえるでしょう。そのときには、また写真をアップします。
この症例は自由診療によるものですが、当医院では保険診療もおこなっております、どうぞお気軽にお声掛けください。尚、全ての症例が同じような結果になるとは限りません。治療前の病状によって術後結果も変わりますので、何か気になる点がありましたらご相談ください。
ps)
この症例の詳細は2018年2月25日に開催される「北九州歯学研究会第42回発表会」にて、他の症例とともに「歯肉を解剖する」というテーマで講演予定です。歯科関係者で興味がある方は、博多駅のJR九州ホールにお越しください。お待ちしております。