症例56 破折歯の生物学的幅径の確立と審美補綴治療(担当医:大村崇維)

はじめまして。おおむら歯科医院に勤務しております、大村崇維(たかつな)と申します。

今回は私が治療した症例を掲示させて頂きたいと思います。

1、

初診時の写真。歯肉縁下で破折しており、炎症が強い。

1、10代女性。右上2の動揺を主訴に来院されました。

患者様は幼少期に歯科治療を受けた時に、ユニットに抑え込まれて治療を受けた経験から歯科治療に対する恐怖心が強く、口腔内に治療が必要な歯がたくさんある状態でした。右上2は、歯肉の縁からかなり深い位置で破折しており、炎症がありました。これは、本来歯肉が持つ生物学的幅径(歯肉が歯周組織のひとつのパーツとして有する歯と付着する機能)という機能を保つことができないくらい深い位置で破折したためです。この状態では、色々な治療をしなければ、歯を保存することはできません。

様々な治療をおこない、生物学的幅径を確立したうえで、セラミッククラウンにより補綴治療(ほてつちりょう・・・歯にクラウンやブリッジや義歯を入れる治療)をおこないました。

2、

2、治療後の写真です。

様々な治療をおこない、生物学的幅径を確立したうえで、セラミッククラウンにより補綴治療(ほてつちりょう・・・歯にクラウンやブリッジや義歯を入れる治療)をおこないました。どの歯がクラウンなのか分からないくらい歯肉と調和した審美歯科治療がなされました。最初は1人では治療が受けられず、保護者の方が付き添っていなければならないくらい恐怖心が強かったのですが、最終的には歯科治療にも慣れ、きれいになったと喜んでいただけました。

初診時の写真。歯肉縁下で破折しており、炎症が強い。

3、

3、右上2を口蓋側(裏側)から見たところです。

この方向から見ると歯が歯肉の縁からかなり深い位置で破折していることがよくわかります。生物学的幅径が侵害されているため炎症がある部分の歯肉が赤くなっているところも見ていただけると思います。

様々な治療をおこない、生物学的幅径を確立したうえで、セラミッククラウンにより補綴治療(ほてつちりょう・・・歯にクラウンやブリッジや義歯を入れる治療)をおこないました。

4、

4、治療後の口蓋側(裏側)からの写真です。

クラウンのまわりの歯肉に炎症は見られず、まわりの歯肉と同じようなピンク色の歯肉がよりそっており、歯肉と調和した審美歯科治療がおこなわれました。

5、

歯肉縁より深い場所で破折しているため、矯正的挺出を行なった。

5、歯を動かないように支えているのは、歯槽骨だけではありません。

歯肉も歯にくっついて、歯を支えています。逆に、歯には歯肉の形態を維持する役目があります。歯と歯肉がくっつくためには歯槽骨から歯が出てから約2〜3mmのスペースが必要とされています。簡単に言うと、このスペースが「生物学的幅径」です。この症例の右上2は、歯肉の中の深い位置で破折したために、このスペースが無くなったため、炎症を起こしていたわけです。これを生物学的幅径が侵害された状態と言います。理論的には、写真1の状態で手術をして歯槽骨を適量切除してこのスペースを作れば、生物学的幅径を回復できることになります。しかしながら、この方法では歯肉の位置がかなり下がり、歯が長くなってしまいます。そのことを回避するために、このような症例では、手術に先立ち矯正的挺出(矯正力を利用して歯根周囲の歯槽骨や歯肉ごと歯冠方向へ引っ張りあげること)がおこなわれます。この写真は矯正用の輪ゴムで矯正的挺出をおこなっているところです。

6、

歯肉縁より深い場所で破折しているため、矯正的挺出を行なった。

6、矯正的挺出が終了したところです。

右上2の歯肉の位置と形態が1、5、6と変化していく過程がお分かりいただけると思います。

以下にオペ中の写真があります。閲覧される場合にはポップアップ表示をされてください。

7、

矯正的挺出と歯冠長延長術(クラウンレングスニング)を行なった。

8、

7、8、生物学的幅径を確立して、歯槽骨の形態と歯肉の位置および形態を整えるために歯冠長延長術(歯茎や歯槽骨を削る歯周外科の一種で、歯肉を少し下げて、その下にある虫歯や歯が割れている部分を歯茎の上に出す治療法のこと)をおこないました。

矯正的挺出、歯周外科(歯の回りの歯肉や歯槽骨に対する手術の総称)という一連の治療により生物学的幅径が確立され、審美補綴治療をおこなうための下準備がなされたことになります。

矯正的挺出と歯冠長延長術(クラウンレングスニング)を行い、メタルコア植立後に歯肉縁下形成を行なった。

9、

矯正的挺出と歯冠長延長術(クラウンレングスニング)を行い、メタルコア植立後に歯肉縁下形成を行なった。(側方面観)

10、

9、10歯周外科の治りを待ち、支台歯(しだいし・・・歯のない部分にブリッジや入れ歯を入れる際、支えとなる歯のこと)に土台を入れ、支台歯形成(クラウンを入れるために歯を削ること、海外ではpreparation-準備といわれ、クラウンを入れる準備をすることとされている)をおこないました。

歯肉圧排(歯肉と歯の境目をだすために、その隙間に糸を入れて一時的に歯肉を広げること)をして、治療後にクラウンのマージン(クラウンと歯の境目)が歯肉から見えて審美性を損なわないように、歯肉縁下(歯肉の縁よりも下の部分)のかなり深い位置まで支台歯形成をおこないました。このような方法は歯肉を傷つけてはならないために、支台歯形成や印象採得(型をとること)の難度が大幅に増します。フィニッシュライン(支台歯の歯科医師が削った部分と削っていない部分の境界線、ここがクラウンと歯の境目・・・マージンとなる)の型が取れないからといって、無理やり歯肉圧排を行うと歯肉退縮を起こし、マージンが露出する原因となり、逆に審美性が損なわれます。

歯肉縁下形成後、圧排操作を行い、シリコン印象を行なった。

11、

12、

歯肉縁下形成後、圧排操作を行い、シリコン印象を行なった後の模型。

11、12印象採得(型をとること)と模型の写真です。

フィニッシュライン(支台歯の歯科医師が削った部分と削っていない部分の境界線、ここがクラウンと歯の境目・・・マージンとなる)が明確に再現されていることがお分かりいただけると思います。

この模型をもとにセラミッククラウンを作製していきます。

13、

矯正的挺出、歯冠長延長術(クラウンレングスニング)を行なった後に支台歯形成を行い、セラミック冠を装着した。
矯正的挺出、歯冠長延長術(クラウンレングスニング)を行なった後に支台歯形成を行い、セラミック冠を装着した。(側方面観)

14、

13、14、治療後の写真です。

どの歯がクラウンなのか分からないくらい歯肉と調和した審美歯科治療がなされました。まわりの歯と同じように歯肉の形がきれいに整っていることがお分かりいただけると思います。このように様々な治療工程を経てようやく、写真1、3の右上2破折歯が写真2、4、13、14のセラミッククラウンような審美歯科治療が達成されることになります。

患者様は最初は恐怖心から1人では治療が受けられず、保護者の方が診療台の横まで付き添われていましたが、現在では1人で通院できるようになり、定期的にメンテナンスに通われています。

この患者様を通して、信頼関係を築きながら治療することの大切さを学ばさせていただきました。今回は院長に比べると経験の少ない私が治療を担当させて頂きましたが、日頃から意識している、正しい診断のもとに的確な術式を用いて正確に治療するということを全うできたと思います。また、正しい方法で施術することで若い歯科医師が行った場合でも良好な結果を得ることができるという一つの例を示すことができたのではないかと考えます。今後もより良い治療を提供できるよう研鑽していきたいと思います。

この症例は自由診療によるものですが、当医院では保険診療もおこなっております、どうぞお気軽にお声掛けください。尚、全ての症例が同じような結果になるとは限りません。治療前の病状によって術後結果も変わりますので、何か気になる点がありましたらご相談ください。

Scroll to top
ご予約、お問い合わせはこちらから
error: Content is protected !!