移転後、医院も大分落ち着いてきましたので、久しぶりに症例ブログを更新します。
1、2
1、2019年2月8日の初診時の写真。60代女性。ご友人からの紹介で、左上奥歯にインプラントをしたいという主訴で来院されました。
同時に、上の前歯も時々痛むと言われました。上顎11は神経が無かったために茶色く変色していました。また、大きなブラックトライアングル(歯と歯の間のすきまと歯肉に囲まれた部分に出来る黒くみえる三角形の空隙)があり審美性損なっていました。全体的にきれいにしたいと希望されました。
2、前歯2本の根管治療(過去に神経を取った歯の根の再治療)と右上の前歯部の歯周外科(歯の回りの歯肉や歯槽骨に対する手術の総称)をおこなった後に、上顎11をセラミッククラウンにより治療しました。
右上2、左上2は過去にコンポジットレジン(樹脂製の歯の修復用素材)による治療がおこなわれていましたが、かけて変色していたので、コンポジットレジンにより再治療しました。(コンポジットレジンによる治療は保険診療です)セラミッククラウンの周囲には、ブラックマージン(クラウンと歯肉の間に黒い線が出てしまったり、歯肉が 黒っぽく変色すること)やブラックトライアングル(歯と歯の間のすきまと歯肉に囲まれた部分に出来る黒くみえる三角形の空隙)が生じることもなく、健康的で透明感のある口腔が構築されました。
3、
3、右上12には深く病的な歯周ポケット(歯と歯茎の間にある隙間で1~3mmが正常範囲で、その歯周ポケットには、食事をした際の食べカスや歯周病などの原因になる細菌が入ってしまうことがあり、あまり深くなると抜歯になることがある)があり、歯周外科手術(歯周病を改善するために、歯肉を開き、歯肉の中側の根面にこびりついた汚れをきれいに取る手術)が必要でした。
歯肉を開いている状態の写真です。右上12間に骨欠損(黄色矢印)が認められます。ルートプレーニング(プラークに含まれる細菌により汚染された歯根の表面を、器具を使って滑らかにすること)をおこない、徹底的に原因を除去します。
4、5
4、5、手術直前と縫合直後の右側方観です。
歯周外科手術により術後に歯肉の位置が極端に下がらないように、歯肉の形態が不整にならないように、そして大きなブラックトライアングルが生じないような方法を選択して手術をおこなわねばなりません。さもなければ審美性は望めません。
6、
6、手術から10日目、抜糸直後の側方観です。
3の写真でわかるように、歯周外科手術の際には、右上1から右上4まで歯肉を開きましたが、写真4と比べて歯肉の位置は極端には変化がありません。右上23間、右上34間のエンブレージャー(歯間鼓形空隙・・・歯肉付近の歯と歯の間にある空隙。正常な歯肉にはわずかに存在する空隙であるが、あまり大きいと食べかすがつまったり、審美的にも問題となる)が、写真4と比べるとわずかに大きく開いていますが、時期を待てば歯間乳頭(歯と歯の間に位置する歯肉でピラミッド状をしている。歯間乳頭が無くなるとブラックトライアングルといわれる黒く見える空隙ができ、食片がつまったり、会話中に空気がもれたりするとともに、審美性に大きく影響することになる)がクリーピング(歯肉がクラウンに寄り添って這い上がるように移動する現象)するような術式で手術をおこなっていますので心配ありません。
7、8
7、8、歯周外科手術から約4ヶ月後に上顎11に支台歯形成(クラウンを入れるために歯を削ること、海外ではpreparation-準備といわれ、クラウンを入れる準備をすることとされている)と印象採得(型を採ること)をおこないました。
フィニッシュライン(支台歯の歯科医師が削った部分と削っていない部分の境界線、ここがクラウンと歯の境目・・・マージンとなる)の明瞭な模型ができました。歯周外科手術から補綴治療(ほてつちりょう・・・歯にクラウンやブリッジや義歯を入れる治療)までの一連の治療を正確におこなうことができなければ、治療後の審美性に悪影響を与えることになります。
9、10
9、2019年8月30日、上顎11セラミッククラウン装着直後の右側方観です。
右上12間のエンブレージャーがわずかに開いています。このままでは審美性に問題があるばかりではなく、食片が詰まったりしますが心配ありません。
10、2019年11月18日、治療終了から2ヶ月半後の右側方観です。
歯肉の右上12間のエンブレージャーは閉じました。これは歯肉のクリーピング(歯肉がクラウンに寄り添って這い上がるように移動する現象)が生じたからです。歯周病に罹患した歯でも様々な治療をおこなうことにより、このような治療をおこなうことができます。