症例5 重度歯周病に対する歯周補綴 3年9ヶ月後

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

術前

術前

術後

2012年5月30日初診、60代男性。お子様からのご紹介で来院されました。上の入れ歯が痛くて物が咬みにくいという主訴でした。ノンクラスプデンチャー(バネの見えない取り外しの義歯)が装着されていました。右上3は残根(根だけが残り、歯の頭がなくなってしまっている歯)の状態で入れ歯が覆っていました。右下2〜左下3は歯がグラグラに動くので、接着性セメントで連結してありました。

下は、2014年5月14日、治療後2ヶ月の写真です。上顎は総義歯、左下6と右下6はインプラント、右下45連結セラミッククラウン、下顎③②①12③④⑤セラミックブリッジにより補綴治療(ほてつ治療ちりょう・・・歯にクラウンやブリッジや義歯を入れる治療)を行いました。このような治療を歯周補綴(支台歯の支持骨の吸収が大きく、動揺度が増加し、クラウンにより連結しなければ、正常な咀嚼機能が営めない状態に対して、歯周環境の整備、安定した咬合、咀嚼機能の回復を図る総合的治療のこと)といいます。歯肉の位置も整い、審美歯科治療が達成されました。

上は術前のデンタル10枚法、2012年5月30日のレントゲンを示します。それを診ると、全体的に重度歯周病でした。上顎は、右上1、左上1、そして左上3だけがかろうじて保存できそうでした。下顎の歯は補綴設計いかんでは、何とか全部の歯を保存できそうでした。ただ、左下5は垂直性骨欠損(歯の根に沿って垂直的に骨が失われること)をおこしていたので、再生療法(歯周病で溶けてしまった顎の骨や歯根膜などの歯周組織を再生させる治療)の適応でした。

下は2014年3月11日のデンタル10枚法を示します。右上1、左上1、左上3は補綴設計上保存する価値がないものと診断して、抜歯しました。実際には、左下3と左下5はかなり重度の垂直性骨欠損が存在していましたので、再生療法をおこないました。


上顎は総義歯により補綴をおこないました。下顎はセラミックによるクラウン・ブリッジとインプラントにより補綴をおこないました。機能性と審美性が両立された治療がおこなわれました。

以下にオペ中の写真があります。閲覧される場合にはポップアップ表示をされてください。

左下3と左下5に対して歯周外科をおこないました。左下3の頬側(表側)に比較的浅めの垂直性骨欠損、左下5の舌側(裏側)にかなり深い垂直性骨欠損が認められました。左下3と左下5の間にある左下4は骨の吸収がほとんどないことがお分かりになると思います。これを歯周病の部位特異性(歯によって、あるいは歯面によって進行具合が異なること)といいます。

左下3、5に対しては、エムドゲイン(歯周病で溶けてしまった顎の骨や歯根膜などの歯周組織を再生させる歯周組織再生療法の一種、豚の歯胚からつくられたタンパク質が歯が生えてくるときと同じような環境を再現し、歯周組織の再生を誘導する、日本国内においては、2002年に厚生労働省の認可をうけている)により再生療法をおこないました。


2012年6月1日エムドゲインをおこなう前と、2012年10月29日エムドゲインをおこなって3ヶ月後のCTを示します。明らかに骨様のものが再生(青矢印から赤矢印への変化を見てください)していることが確認できます。

補綴治療(ほてつちりょう・・・歯にクラウンやブリッジや義歯を入れる治療)に入る前に、二つの理由で矯正をおこないました。ひとつはもちろん審美歯科のためです。もうひとつの理由は、歯周補綴をおこなうために、この症例では全ての歯に支台歯形成(クラウンを入れるために歯を削ること、海外ではpreparation-準備といわれ、クラウンを入れる準備をすることとされている)をおこなわねばなりませんが、歯を連結するためには、支台歯が平行になるように削らなければ、クラウン・ブリッジが装着できないためです。無理やり平行に削ることもできないことはありませんが、そうすると支台歯が細く短くなり、歯質を無駄にするばかりではなく、クラウンが外れやすくなったり、神経に近づきすぎて神経を取らなければならなくなったりするため犠牲が多く、良い方法とはいえません。

下は矯正治療後です。歯並びも歯肉の位置もきれいに整いました。約3ヶ月で矯正は終わりました。

支台歯形成後の写真です。元から神経があった歯は全て神経のあるまま支台歯形成がおこなえました。これは先の矯正治療によるところが大きいです。左下の12は保存することも可能でしたが、敢えて抜歯をしています。何故なら、補綴治療において連結部位が多くなればなるほど、フィットに大きな影響がでるからです。補綴治療においてフィットは生命線です。クラウンをどれだけきれいに、どれだけ長持ちさせるかは、全てフィットにかかっていると言っても過言ではありません。特に多くの歯を連結する場合には、一箇所連結部が増えるだけでその何倍もフィットが悪くなります。補綴治療はクラウンを歯に被せるので、どのようにしても歯とクラウンにギャップが生じます。30ミクロンレベル(髪の毛一本が60ミクロン)でフィットを求めるのであれば、様々な配慮が求められます。ぎりぎり保存できるかもしれないような歯を、2本抜歯することにより、連結箇所が2箇所減るのであれば、そちらを選択することが良い結果につながると診断した結果です。何でもかんでも残せば良いというものではありません。また、症例2-1の右上3のように、とても保存することが難しいような歯でも色々な治療をして残さなければならない歯もあります。これは、治療する際のキートゥースといわれます。なお、欠損部にはオベイトポンティック(ブリッジの欠損部分を補うための人工歯の基底面形態の一種であり、基底面が卵型(=ovate) を呈するものをさす、これをあらかじめ凹面に形成した顎堤粘膜に密着させることにより、 あたかも天然歯が萌出しているかのような歯頚部形態、および生理的に適度な圧迫による歯間乳頭・鼓形空隙の再生が得られる)を用いました。

クラウンフィットの要である精密な模型が必要です。模型上で支台歯と歯肉の境がはっきり再現されていなければマージン(クラウンと歯の境目)部のフィットは望めません。歯科医師であれば、このような型を採ることの重要性と、これがいかに難しい治療であるかについては承知していると思います。ただ、患者様にとりましては、この写真の意味するところが分からないと思われますので、近い内にそれがいかに重要であるかについてアップするつもりです。

術前、術後の下顎歯列を示します。術後は微妙な彎曲がつけられています。これは、天然歯列では、スピーの彎曲・ウィルソンの彎曲、クラウン・ブリッジによる補綴治療では、前後的咬合彎曲・側方咬合彎曲、総義歯においては、前後的調節彎曲・側方調節彎曲と呼ばれます。

2017年12月7日の写真です。治療後3年9ヶ月の状態です。現在良好に経過しています。

この症例は自由診療によるものですが、当医院では保険診療もおこなっております、どうぞお気軽にお声掛けください。尚、全ての症例が同じような結果になるとは限りません。治療前の病状によって術後結果も変わりますので、何か気になる点がありましたらご相談ください。

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