1、2、
1の写真は2019年3月6日初診、50代女性でした。
右上3のクラウンが土台ごと外れて落ちたという主訴でした。右上3が歯肉の奥深いところまで虫歯になっていました。右上2345の歯肉の位置も不整です。右上3の状態は一般的にはC4と呼ばれ、抜歯となります。しかし、矯正的挺出(矯正力を利用して歯根周囲の歯槽骨や歯肉ごと歯冠方向へ引っ張りあげること)をしてから、後に歯冠長延長術(歯茎や歯槽骨を削る歯周外科の一種で、歯肉を少し下げて、その下にある虫歯や歯が割れている部分を歯茎の上に出す治療法のこと)をおこなえば、歯を残せる場合があります。この時、右上45にはセラミッククラウンが装着されていましたが、歯の形態が不整でした。クラウンのマージン(クラウンと歯の境目)も歯肉から露出して自然観がなく、審美性が損なわれていました。
2は、2021年1月23日、治療後の写真です。
歯を保存できただけではなく、歯肉の位置や歯肉のスキャロップ(貝殻のような形をした歯肉の高低差)も整い、機能的で審美的な歯科治療がなされました。もちろん、マージンは歯肉の中に収まり、ブラックマージン(クラウンと歯肉の間に黒い線が出てしまったり、歯肉が 黒っぽく変色すること)もありません。全顎にホワイトニングをおこなった後に、右上234はセラミッククラウン、右上56はインプラント治療をおこないました。
3、4、5、
3の写真は右上3を真上から見たものです。
歯は虫歯になっている上に、歯肉が覆いかぶさっています。これでは歯と歯肉にとって、生物学的幅径(歯肉が歯周組織のひとつのパーツとして有する歯と付着する機能)を確立できるスペースが不足しています。歯冠長延長術(歯茎や歯槽骨を削る歯周外科の一種で、歯肉を少し下げて、その下にある虫歯や歯が割れている部分を歯茎の上に出す治療法のこと)をおこなわなければこの歯を保存することはできません。
4、1の写真の状態で歯冠延長術をおこなえば、歯肉の位置がさらに上がってしまい、歯肉の連続性が乱されます。このような場合には、治療後に歯肉の位置が整うように、歯冠延長術に先立ち矯正的挺出がおこなわれます。この写真は矯正用の輪ゴムを使って歯を引っ張りあげている写真です。
5、矯正的挺出をおこなっている最中には、審美性のために簡単な仮歯で装置を隠します。
6、7、
6、矯正的挺出が終わったところの写真です。
1の写真と比較すると、右上3部の歯肉の位置が右上24と揃ったことが確認できます。
7、歯冠延長術をおこなっている時の写真です。
歯周外科手術により、歯と歯肉が付着できるスペースを獲得します。この一連の治療が上手く終えた後に、補綴治療(ほてつちりょう・・・歯にクラウンやブリッジや義歯を入れる治療)に移行していきます。
8、9、10、
8、フィニッシュライン(支台歯の歯科医師が削った部分と削っていない部分の境界線、ここがクラウンと歯の境目・・・マージンとなる)を明確にするために、印象採得(型を採ること)に先立ち歯肉圧排(歯肉と歯の境目をだすために、その隙間に糸を入れて一時的に歯肉を広げること)をおこないました。
9、10、右上34と右上23の印象(歯の型)の写真です。
現在最も精度の高い精密印象材であるシリコーン印象材を用いて、正確な型を取ります。このステップは非常に重要です。シリコーン印象材は非常に高価で、使用法も複雑で難易度が高いのですが、これがセラミッククラウンの適合精度に反映され、歯肉の健康状態に深く関係します。このステップを簡素化するために、現在では光学印象なるものがでていますが、歯肉の中のフィニッシュラインの再現性に乏しく、精度的にもシリコーン印象に比較するべくもないので、現時点ではまだまだ使えるものではありません。
11、12、13、
11、12、13、一連の印象採得(型を採ること)で得られた右上234のクラウン用の模型です。
この精度の高い模型が審美歯科の基本となります。このように複雑な治療工程を経て、審美歯科治療は達成されます。